大判例

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京都地方裁判所 昭和27年(レ)28号 判決

被控訴人は控訴人に対し京都府南桑田郡亀岡町字内丸一番地の二十一所在木造瓦葺平家建居宅十四坪一合九勺の南側部分において右建物の西南角より北四尺一寸の地点から北へ幅員三尺二寸奥行四間に亘る通り庭の部分を明渡せ。

控訴人は被控訴人に右部分を共同使用させなければならない。控訴人のその余の請求は棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを三分しその二を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

本判決は控訴人勝訴の部分に限り金一万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

二、事  実

控訴代理人は原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し京都府南桑田郡亀岡町字内丸一番地の二十一所在木造瓦葺平家建居宅十四坪一合九勺及び同附属木造瓦葺平家建物置二坪、便所約一坪を明渡せ、若し右請求の理由がないときは、予備的に被控訴人は控訴人に対し前記建物の南側部分において同建物の西南角から北へ幅員一間奥行四間にわたる部分及び右附属物置及び便所を明渡せ、との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は控訴代理人に於て本件賃貸借解約の正当事由として更に(一)控訴人は僅かの通路を設定する為には、被控訴人に対し最大の譲歩、多大の犠牲をも辞さない。原審及び当審の調停においては種々の条件を提示して通路設定の承諾を懇請し或はその代償として、本件建物を被控訴人に贈与する旨申出で、或は右建物の直ぐ裏にある控訴人所有の空家を被控訴人の使用に提供する旨申出たが、被控訴人は唯自己の営業の不利益を云々して拒絶した。(二)原審判決は控訴人が既存の賃借権のあることを承知の上で本件建物を買受けたのであるから、その制約を免れない旨判示するが控訴人が通路を必要とする事由は、右買受後の事情変更により発生したものである。と陳述し、被控訴代理人に於て控訴人は自己の現住建物を前所有者訴外上村宗次より賃借していた昭和十三年当時より引続き該建物と地続きである同訴外人居住の建物内を通行して来たものであり、この状態は何等変更しておらない。将来同訴外人が控訴人のこの通行に対し異議を唱えるようなことがあるとしても、控訴人は之に対し、通行権(地役権)を主張しうる筈である。然るに現在同訴外人より控訴人の通行に対し、何等の異議なく又切迫した事情もないのであるから事情変更に基く控訴人の主張は理由がない。と陳情した外孰れも原判決事実摘示の通りであるからここに之を引用する。

<立証省略>

三、理  由

本件家屋は控訴人の所有に属し、被控訴人はこれを期間の定なく賃借していたところ、控訴人は昭和二十三年三月二十八日被控訴人に対し自己使用の必要あることを理由として解約申入をなした事実は当事者間に争がない。

而して原審及び当審における証人浅田ムラ、上村宗治の各証言及び控訴人本人訊問並びに検証の各結果を綜合すると、控訴人側において本件家屋を自己使用に供するに付き左の如き、必要性の存するものであることが認められる。即ち控訴人現住家屋(以下甲家屋と称す)は山陰街道の東側約五間以上奥まつたいわゆる袋地に建築されていて、街道へ出るのには、被控訴人現在の本件家屋を通り抜けるか或いは本件家屋の北側にある上村宅を通るかしなければならない。もともと甲家屋は右上村宗治の所有であつて、控訴人は同人からこれを賃借していた当時は家主である上村方の土間を通して貰い山陰街道に出ていたのであるが、昭和十九年十一月二十日これを上村から買受けるに際し、控訴人は街道への通路を自己において作ることを約し、上村はそれまで暫くの間従前通り土間を通行させることに同意したのである。街道への他の一方の出口である本件家屋(敷地を含む)はもと上村の所有であり、同人より被控訴人が賃借していたのであるが、控訴人は昭和二十二年一月二十八日右家屋を浅田政市の手を経て買受け、右賃貸借を承継した。控訴人が右家屋を買受けるに至つたのは、前記のような事情から自分で街道への通路を開設する必要に迫られ、これを本件家屋に求めるの外方法がなかつたからである。甲家屋の山陰街道とは逆の方向、即ち東側は断崖をなしており、甲家屋は右断崖に懸つて建築せられ、表即ち西側からは一階建に見えるが、裏即ち東側は三階建で、控訴人等の住んでいるのはこの三階にあたる部分である。なお崖下には小道があり迂廻して山陰街道へ通じている。而も甲家屋の北側には崖下へ通ずる階段があり右小道へ連絡するのである。しかし乍ら右階段は上村の所有に属し、もともと階段下にある上村の物置へ出入りするため設けられたもので平常は上村が出口に施錠しているのみならず、傾斜甚しく、且つ腐朽した部分もあり、頗る不完全なものであるから非常の用に供するのは兎も角、日常出入の用に使用し難い。又甲建物の二階と一階との間には階段が設けられているので、控訴人方三階から二階へ階段をつければこれを利用して裏道に通ずることも可能ではある。しかし乍ら三階は六畳と三畳の二部屋に過ぎず、(二階、一階は物置で居住に不適当である。)ここに控訴人夫婦の外十八歳を頭に四人の子供が居住しているので階段を設ける場所的余裕に乏しい上、建物の価値に比し相当多額の費用を要するわけであり、而も裏の小道から山陰街道へ出るのは非常な廻り道になるのであるから、この工事を控訴人に要求することはやや酷の感がする。上村からは改めて土間の通行を拒絶する旨の申入はない。しかし上村方で外出就寝する際にも控訴人方で外出している者があると通路(土間)の戸締りができないのであるから、その迷惑はこれを認めるに難くないのであつて、上村としては一刻も早く右負担から免れたいのが人情の常である。一方控訴人としては本件家屋を買受けた以上もはや上村に迷惑を掛けたくないと考えるのが自然の道理であつて、上村に対しそのため一層恐縮するわけでもある。他面控訴人方を訪れるには上村方の屋内を通らなければならないというので、親類縁者も訪問を渋り勝ちであること。上村方が通路に面する表口に戸締りをしなければならないことを考えると、夜間の外出も意のままにならないこと。昭和二十五年一月十五日子供の葬式の際には正月中のこととて上村方より出棺させて貰いたいと言い出しかねて処置に窮したこと等控訴人方の窮状は察するに余あるものがある。

然し乍ら一方被控訴人側についてみれば、成立に争のない乙第一乃至第三号証原審及び当審における被控訴人訊問の各結果、検証の各結果を綜合すると次の如き事実を認定することができる。即ち被控訴人は前記の如く本件建物を上村宗治より賃借し、昭和六年一月二十九日京都府より飲食店営業の許可を得てうどん、ぜんざい等の飲食店を営んでいたところ、昭和二十三年七月一日控訴人の提起した別訴の第一審勝訴判決に基く仮執行により調理設備を破壊され、一時営業を中絶するの止むなきに至つたが、その後昭和二十四年五月頃よりぼつぼつ営業を再開し、末だ調理設備を使用するに至つていないものの、その余の部分を利用して菓子、パン、ラムネ等を販売し、その営業により辛じて生活を支えており、近い将来再び調理設備を修理して広く飲食営業を再開したいとの強い希望を持つている事実、本件家屋は平家建であつて表に店舗用の土間が、その奥に三畳六畳の二室があり、南側に幅約三尺二寸の通り庭があつて裏に通じ通り庭の南三尺の幅にかまど、流し等の調理場があるのみで他に場所の余裕は全く存しない事実、被控訴人方の調理場は狭隘に過ぎ飲食店として不適当であり、以前からの営業でもあるので特に許可されているが、なおこれ以上狭くなれば営業許可を取消されるおそれのある事実、被控訴人は他に移転先もなく収入の道も考えられない事実を何れも認めることができる。

以上認定した事実に基き、控訴人のなした前記解約申入が本件賃貸借を終了させる正当の事由を具えたものであるか否かにつき判断する。控訴人が本件家屋の明渡を求める必要は如何に緊急止むをえないものであるといつても、それは結局山陰街道への通路を開設せんとするにあるのであるから、それ自体本件家屋全部の明渡を求める正当の事由とならないことはいうまでもない。いわんや若し被控訴人において右建物全部の明渡をしなければならないとすれば、被控訴人の居住、営業の基礎は根底から覆され、路頭に迷うの外ないにおいておやである。そこで更に進んで控訴人主張の一部解約の正当事由の有無について考えるに、前記認定の如く控訴人の明渡請求部分には調理場かまど等飲食営業用設備が備えてあるので、若しこの部分を明渡さなければならないとするならば、被控訴人の将来における飲食営業再開を全く不能にするのみならず、現在控訴人の炊事の場所や奥の部屋への通路にも事欠くようになるのであつて、かようなことは被控訴人の到底忍び難いところである。しかし乍ら甲家屋の三階より二階えの階段を設けるべきだと云うことを主たる理由として、控訴人の請求を全面的に排斥した原判決の結論は控訴人に対し、難きを強いる嫌があつて容易に是認し難く、特に現在何等の関係もない(被控訴人主張の地役権の有する事実は之を認むるに足る十分なる証拠はない。蓋し上村に於て控訴人の通行を認めていたことは前認定の通りであるけれども、右通行部分は上村宅の通り庭たることに留意するならば、かような場所に他人の為め無償で地役権を設定するが如きことは通常何人も肯じ難いところであるから、地役権設定につき明示の意思表示のあつたことを認むべき何等の証拠のない本件でかかる権利の設定を軽々しく認定しうべきものではない。)上村に於て前記の如く控訴人を通行させることにより種々の不便を忍んでおり控訴人としても之以上もはや、その好意に甘えることのできない窮状にあることに思いを致すならば、右不便はむしろ控訴人よりその所有家屋を賃借している被控訴人において忍受し控訴人の窮状を打開しなければならない筋合である。蓋し賃貸人たる控訴人において賃借物たる本件家屋の一部を自ら使用すべき緊急止むなき必要があり、他面賃借人たる被控訴人に於て之に応じても必しもその賃借物の使用に致命的打撃を受けないような場合は、その限度に於ては賃借人に於て賃借物を返還すべき義務あるべく、本件に於て被控訴人が本件家屋の通り庭の部分を控訴人に返還しても之を通り庭として現状の儘共同使用を認める限り、その営業を継続することは可能なるべき前認定の通りの事実関係の下に於ては、この程度の犠牲を被控訴人が忍受することは賃貸人と賃借人の相互の利益の調和をはかり、双方の生くべき途を発見するが為には止むを得ないことと思料されるからである。控訴人としては専用の通路を開設し度いのは山々であろうが被控訴人の立場を考え忍ばねばならない。

よつて諸般の事情を比較考量した結果、被控訴人に現状の儘共同使用させるという制限の下に本件建物の南側部分において調理場を除き同建物の西南角より北四尺一寸の地点から北へ幅員三尺二寸奥行四間の現在通り庭となつている部分についてのみ、解約申入の正当性の要件を充足するものと認めるを相当とする。故に右部分の賃貸借は前記解約申入後六ケ月の期間を経過した昭和二十三年九月二十八日を以て終了し、被控訴人は控訴人に対し現状の儘で右部分を明渡すべき義務を負担したものであると共に、控訴人は右部分を被控訴人をしてその物の用法に従い使用させなければならない。従つて控訴人の請求はこの限度において正当として認容すべきも、その余の部分は失当として棄却すべく右の限度において原判決を変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十六条、第八十九条、第九十二条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宅間達彦 宮崎福二 中島一郎)

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